ふと気づくと、ダッシュボードの上や座席に車の鍵が見えるのに、ドアは固くロックされていて開かない。いわゆる「インロック(キー閉じ込み)」は、ドライバーなら誰しもが遭遇する可能性のある、悪夢のようなトラブルです。この絶望的な状況で最も大切なのは、パニックに陥らず、正しい手順で冷静に対処することです。まず、最初に行うべきは、スペアキーの有無とその所在の確認です。もし自宅の近くでインロックしてしまい、家族がスペアキーを持っているなら、それを持ってきてもらうのが最も安価で確実な解決策です。しかし、出先でのトラブルや、スペアキーが遠方にある場合は、プロの助けを借りる必要があります。その際の主な依頼先は、「JAFなどのロードサービス」、「加入している自動車保険のロードサービス」、そして「鍵の専門業者(鍵屋)」の三つです。JAF会員や自動車保険の契約者であれば、多くの場合、無料で解錠作業を行ってくれます。まずは会員証や保険証券を確認し、記載されている連絡先に電話をかけるのが賢明です。もし、これらのサービスに加入していない、あるいは対応時間外である場合は、鍵屋に依頼することになります。ここで、絶対にやってはいけないのが、自分で無理やりこじ開けようとすることです。インターネット上には、ハンガーや定規を使った開錠方法が紹介されていますが、これらは昔の単純な構造の車でのみ通用した方法です。現代の車のドアロックは非常に複雑で、素人が下手に手を出せば、ドアパネルや塗装を傷つけたり、内部のロック機構を破壊してしまったりする可能性が非常に高いのです。そうなると、解錠費用とは比較にならないほどの高額な修理費がかかってしまいます。また、防犯アラームが作動して、周囲に多大な迷惑をかけることにもなりかねません。焦る気持ちは痛いほど分かりますが、愛車を守るためにも、ここはぐっとこらえて専門家の到着を待つ。それが、被害を最小限に食い止めるための、唯一の正しい初動対応なのです。