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鍵一本をなくした私の痛い出費
それは、友人との飲み会からほろ酔い気分で帰宅した、深夜のことでした。マンションのドアの前で、いつものようにカバンの中を探るも、そこにあるべきキーケースが見当たりません。上着のポケットにも、ズボンのポケットにもない。一瞬で酔いが覚め、血の気が引いていくのを感じました。記憶を辿ると、最後に鍵を使ったのは、家を出る時。つまり、飲み屋か、帰りの道中のどこかで落とした可能性が高い。しかし、深夜に店に電話しても繋がらず、来た道を戻って探す気力もありませんでした。途方に暮れた私は、スマートフォンで「鍵 解錠 深夜」と検索し、ヒットした業者に電話をかけました。すぐに駆けつけてくれた作業員の方に、事情を説明し、まずは解錠作業をしてもらいました。私の部屋はディンプルキーだったため、ピッキングは困難とのことで、特殊な工具でシリンダーを破壊して開けることになりました。けたたましいドリルの音の後、ようやく我が家に入れた時の安堵感は、今でも忘れられません。しかし、問題はここからです。翌日、私はすぐに管理会社に電話をし、鍵を一本紛失したことを正直に報告しました。担当者からは、「防犯上の理由から、シリンダーの交換が必須です」と告げられ、提携している鍵屋を手配してくれることになりました。数日後、業者が来て交換作業が行われ、後日、管理会社から請求書が届きました。その内訳は、「シリンダー交換費用(部品代・作業費込み)」として三万五千円。そして、先日、私が自分で呼んだ鍵屋に支払った「深夜の解錠作業費」が二万円。合計で、五万五千円。鍵をたった一本なくしただけで、私のその月の食費に匹敵する金額が、一瞬にして消えてしまったのです。この手痛い出費は、私に、鍵を管理することの責任の重さと、トラブル発生時の正しい連絡手順の重要性を、骨身に染みて教えてくれました。
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「自己責任で」と言われた日。私が合鍵作りで学んだこと
社会人になって初めて一人暮らしを始めた頃、私は合鍵の重要性について、あまりにも無知でした。入居時に不動産会社から渡された鍵は二本。一本は自分で使い、もう一本は万が一のために実家に預けていました。ある日、私は自分の不注意で鍵を紛失してしまいました。幸い、実家に預けていたスペアキーがあったので、事なきを得ましたが、また無くしたら困ると思い、そのスペアキーを持って近所の小さな鍵屋に駆け込みました。店の奥から出てきた年配の店主は、私が差し出した鍵を一瞥するなり、「あ、これは合鍵だね。元々の鍵じゃないよ」と言いました。私には何のことかさっぱり分かりませんでしたが、彼は続けました。「合鍵から合鍵を作ると、精度が落ちて、うまく開かないことがあるんだ。それでもいいなら、作るけど。その場合は自己責任でね」。当時の私は、「自己責任」という言葉の意味を軽く考えていました。とにかく鍵が一本増えれば安心だと思い、「大丈夫です、お願いします」と答えました。数百円で、すぐに新しい合鍵は出来上がりました。しかし、その日から、私の小さなストレスは始まりました。新しく作った合鍵は、マンションの鍵穴に差し込む時から、どこか引っかかるような感触がありました。回す時も、グッと力を入れないと回りません。それでも、開かないわけではなかったので、「こんなものか」と無理やり自分を納得させて使い続けていました。悲劇が起きたのは、それから三ヶ月後のことです。いつものように鍵を開け、家に入ろうとした時、鍵が鍵穴から抜けなくなってしまったのです。左右に動かしても、前後に引いても、びくともしません。結局、私は管理会社に連絡し、専門の業者を呼んでもらう羽目になりました。駆けつけた業者は、私の持っていた鍵を見て、「ああ、これはコピーのコピーですね。精度が悪いから、中で引っかかっちゃったんですよ」と、あっさり原因を教えてくれました。結局、錠前を一度分解して鍵を抜き、このままではまた同じことが起きるからと、シリンダーごと交換することに。その費用は、二万五千円。あの時、数百円で作った合鍵が、何十倍もの高い授業料になって返ってきたのです。あの日の店主の「自己責任で」という言葉の本当の重みを、私はこの時、骨身に染みて理解したのでした。