ある老舗の製造会社で、数十年間にわたり使われてきたエーコーの大型耐火金庫が開かなくなるという事件が起きました。この金庫は創業当時から事務所の奥に鎮座し、会社の歴史を支える重要な書類や権利証が納められていました。解錠方法は、伝統的なダイヤル式とシリンダー錠の併用でしたが、長年、ダイヤルは特定の番号に合わせたまま固定され、鍵だけで開閉を行うという運用が常態化していました。ところが、事務所の模様替えの際に誤ってダイヤルが回ってしまい、さらに悪いことに、その正しい番号を記した控えがどこにも見当たらないという事態が発覚したのです。経理部長をはじめ、古参の社員たちが記憶を頼りに様々な番号を試しましたが、金庫は沈黙を守ったままでした。エーコーのダイヤル金庫は、百万通り以上の組み合わせがある「百万変換ダイヤル」を採用しているモデルもあり、闇雲に回して当たるような代物ではありません。会社にとっては、明日までの入札に必要な書類が取り出せないという、事業存続に関わる危機的状況でした。無理にドリルで穴を開けてこじ開けるという案も出ましたが、金庫の構造上、一度壊してしまえば再利用は不可能です。最終的に、会社は金庫解錠の専門技術を持つプロの鍵職人を呼ぶ決断を下しました。現場に到着した職人は、特殊な聴診器のような道具をダイヤルに当て、指先の繊細な感覚だけで内部の座の動きを探っていきました。一時間以上に及ぶ格闘の末、カチリという小さな音とともにダイヤルが止まり、ついに扉が開かれました。中から無傷で書類が取り出された瞬間、事務所内には歓声が上がりました。この事例が教える教訓は、金庫の運用ルールを形骸化させてはいけないということです。ダイヤルを固定して使うことは一見便利ですが、不意に回ってしまった時のリスクは計り知れません。その後、その会社ではエーコーの最新の指紋認証式金庫を導入し、複数の管理者で解錠できる体制を整えるとともに、古い金庫のダイヤル番号もしっかりとデジタルと物理の両面でバックアップを取るようになりました。金庫が開かないというトラブルは、組織の管理体制を問い直す大きな転換点となったのです。 また、職人はユーザー自身の誤った対処についても警鐘を鳴らします。「開かないからといって、ハンマーで叩いたり、無理にレバーに棒を差し込んで回そうとしたりするのは逆効果です。エーコーの金庫には、無理な力が加わると再ロックがかかるリロック装置が搭載されているモデルもあり、そうなるとプロでも解錠が非常に困難になります」。開かないと気づいたら、まずは一呼吸置いて、メーカー名と型番を確認し、速やかに専門家に相談すること。そして、日頃から無理な開閉をせず、内部に詰め込みすぎないこと。これが、大切な資産を預ける金庫と長く付き合うための極意です。金庫は沈黙していますが、常に持ち主の扱い方に反応しています。職人の手によって再び開かれた金庫の扉は、正しい知識とメンテナンスの重要性を無言で語りかけているようでした。
老舗企業を襲ったエーコー金庫のダイヤル番号紛失事件