手元にある合鍵を持って鍵屋に行ったのに、「これからは作れません」と断られてしまった。あるいは、「作れるけど、開かなくても保証はできませんよ」と、念を押されてしまった。そんな経験をしたことがある方もいるかもしれません。なぜ、鍵屋は合鍵からの合鍵作製に、それほどまでに慎重な姿勢を示すのでしょうか。その背景には、単に「できない」という技術的な問題だけでなく、プロとしての責任感や、顧客をトラブルから守りたいという誠実な思いが隠されています。鍵屋が合鍵からの作製を断る、あるいは渋る最大の理由は、「クレームの防止」です。前述の通り、合鍵から作られた鍵は精度が著しく低下しているため、正常に作動しない可能性が非常に高いのです。「お金を払って鍵を作ったのに、全く使えないじゃないか!」というクレームは、店にとって最も避けたい事態の一つです。事前にリスクを説明し、それでもと望むお客様にだけ「自己責任」で対応するのは、こうした後のトラブルを未然に防ぐための、いわば防衛策なのです。次に、「顧客の利益を守るため」という、より深い理由があります。腕の良い、誠実な鍵屋ほど、精度の低い鍵を使い続けることが、将来的にお客様にとってどれだけ大きな不利益になるかを知っています。一時的に使えたとしても、いずれは鍵穴を傷つけ、高額なシリンダー交換が必要になる未来が見えているのです。だからこそ、目先の数百円の売り上げのために安易に合鍵を作るのではなく、「時間はかかりますが、純正キーを取り寄せましょう」「この機会に、防犯性の高いシリンダーに交換しませんか」といった、根本的な解決策を提案するのです。それは、一見すると商売っ気があるように見えるかもしれませんが、実は、お客様の長期的な安全と経済的負担を考えた、プロとしての良心に他なりません。さらに、ディンプルキーなどの特殊な鍵に関しては、「防犯上の責任」という側面もあります。メーカーが厳格な登録制度で管理している鍵を、安易に複製することは、犯罪に使われるリスクを高めることに繋がりかねません。信頼できる鍵屋ほど、メーカーの定めた正規の手順を遵守します。もし、あなたが合鍵からの作製をあっさりと引き受ける店と、リスクを丁寧に説明して断る店の二つに出会ったなら、後者こそが、あなたのことを本当に考えてくれている、信頼に値する鍵屋であると言えるでしょう。